吹き荒れる風と雨の季節が過ぎるころ、インド カッチ地方の畑では農家が種蒔きの準備にとりかかる。
その地域で育つ綿は、 "カラコットン" (kala cotton)と呼ばれている。それは品種改良のされていない、古代から育てられてきた綿花(原種綿)。
インドの綿花生産は紀元前3000年に遡るといわれている。モヘンジョダロ(インダス文明最大の都市)から発掘された生地片は、その時代に広く生産をされていた原種綿であったという。インド独立の際、97.5%を占めていた国内綿花生産量は、大きな花で摘み取りやすいアメリカ原産の綿花が流入。のちに品種改良された "BTコットン" へ引き継がれ、2011年ではわずか2% となった。
この綿花は地域固有の種であり、風土に適した性質をもつ。病気や害虫に強く、農薬や大量の水を必要とせず、雨水のみで育っていく。薬剤や合成肥料を必要としない品種は、生産に携わる人々の健康を維持するとともに投資も少なくてすむ "環境と人にとって持続可能な綿" といえる。
2001年インド西部地震以降、この固有種に目を向けたNGO団体は、継続的に生産するため農家と織匠と協力を重ね、今日ではカラコットンが市場に出るまでになった。
カラコットンは繊維が短く、織り上がるとスラブ調の凹凸が目立つ。布はざらつく麻のような風合い、しかし洗いを重ねると綿の柔らかさが際立ってくるのも特徴的。
環境や人に良いものを使うことだけでなく、はるか昔から脈々と育てられてきた歴史に思いを巡らし、かつての人々の生活を想像することも愉しみのひとつである。
Source: Khamir A Frayed History - The journey of Cotton in India by Meena Menon and Uzramma